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価値は相手の心の中にある。
支持してもらえる自分へ。

青森県黒石市花巻、隆昭園(りゅうしょうえん)。農家を26年間営んできた佐藤隆治氏のもとを訪れた。
隆昭園は家族経営で有機栽培と減農薬栽培を行いながら、自ら集客・販売を手掛けるりんご農園。
畑は13箇所あり、合わせて3ヘクタールほどの広さに3千本ほどのりんごの木がある。

農家にとって「農産物づくりとは何なのか?」ということ、そして、農産物をつくるだけではなくその先の販売について真摯に向き合ってきた農家に話を伺った。

取材をこころよく引き受けてくれた佐藤氏は、私たちが出会った素晴らしい農家のことを発信していきたいという想いを伝えると「美味しいものを食べた時、「これうまい」ってものを食べた時さ、人に教えたくなるじゃん。多分その心境なんだよ。」と汲み取ってくれた。

#1農家の仕事

りんごの木は作り手の心そのまま。いい剪定士は2年も3年も先をみる。

本州最北端に位置する青森県。訪れた2月末、黒石の街は雪に覆われていた。

1月〜4月は主に剪定作業をしているという農園の足下は真っ白、春になり雪が溶けると現れる地面は80cmも下にある。
足元に落ちている剪定された枝は、色が黒いので太陽の熱を吸収しやすく、周りの雪が溶けやすくなるので雪解けまで残しておくそうだ。

取材の日も静かな農園で黙々とりんごの木に向き合う佐藤氏。「道具は本当に大切にしている」と、職人のもとまで足を運び、信頼できるものかどうかを確かめたハサミやのこぎりを見せてくれた。

「俺はこう思うからここを剪定する。りんごの木は心そのまま。」

隣り合う木同士や、伸びた枝同士を見ながら、どの枝を活かすのか何故その枝を切るのかを考える。答えを持っていなければ切れないと。日陰をつくる枝を切ると日当たりの良くなった枝やりんごが育ち、疲れた枝を切るとその反動で別の枝が育つ。地上の木は土の中の根とも作用し合っているので、両方のバランスを想像することが大切。
ひとつの枝や花芽を切ることは全体へと影響しており、来年、そしてその先のりんご園全体の木々の成長と収穫量につながっていく。

毎年、剪定作業からはじまるりんごづくり。3千本あるりんごの木に実る、一つひとつのりんごに目をかけ、大きく、まんべんなく赤く色づくように、「適花」「摘果」「葉摘み」と「球回し」と1年を通して作業は続く。

減農薬に取り組む隆昭園では薬かけにも気を遣う。病害虫の特性を知り、適切な時期に必要な量だけ散布する低農薬栽培はしっかりと知識を持っていなければできない。農薬のコストカットにもつながり、農家の経営にも結びつく。

11月に入るといよいよ収穫作業が始まる。1日に1mm大きくなるというりんごは、木についている時間が長ければ長いほど大きく甘くなるが、りんごが凍らないよう雪が降る前には収穫を終えなければいけない為、後ろにある雪との戦いとなり、この時期の労働時間は大変なものだという。
収穫が終われば毎日荷造りと発送に追われる。12月半ば頃、葉っぱが全部落ちるとすぐに次の年の収穫に向けての剪定作業が始まる。

このようにりんご農家は、年に一度の収穫期に向けて、りんごの成長に寄り添いながら、よりよい品質で収穫するための様々な工程をこなさなければならない。

長い時間をかけて育て、実った作物をほんの短い収穫期に一気に収穫し、それが1年間分の収入に結びついているという農家の仕事について「農業って多分、特殊な部類なんだよ。」という佐藤氏。木の病気や自然災害などにより、大切に育ててきたりんごがダメになることもある。

「そんな時、また来年あるやという気持ちにもなるし、来年こそはっていう気持ちもあるしさ。毎年反省もある。10年ぐらいやっていれば10年前に失敗したことがまた出てきたりさ。私が考える仕事って、対策の積み重ねだと思ってる。毎日やってるのが秋に収穫するための対策の積み重ね。やれることを全部やるってこと。ゴールが収穫して販売にあるから。」と語った。

毎年、何が起きるか分からないけれども、農産物の成長に寄り添いながら行う仕事のすべてを、前向きに受け入れている。