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いつまでも学び続ける心で
植物を素直に育てる

のどかな風景が広がる大分県玖珠町。
神連氏は子どもの頃から野菜づくりに興味があり、農業の専門学校を卒業後20歳の時に就農した。以来40年以上にわたり農業を探究し続けている。

一時は製造業の会社員として働いたが「やっぱり自分には野菜づくりしかない」との想いで農業の世界に戻ってきた。現在は夏秋ピーマンをメインに、新たに白ネギの栽培もはじめている。

「農業には答えがない。全然読めないから、またそこも魅力かな。」「ピーマンの魅力は栽培が簡単そうで難しいところ。こうやったからこうなるっちゅうことが絶対ないんです。」
難しさをポジティブに捉え、学び続けることを楽しむ。野菜づくりには尽きない好奇心を産み出す魅力があるようだ。

印象的だったのは「植物を素直に育てる」という言葉。
そこにはどんな思いや考えがあるのだろうか。
彼が今感じている農業の難しさ、面白さ、植物を素直に育てるということについて、話を聞いた。

#1農業の難しさ

地域が育む農業
自然の恵みと厳しさ

玖珠町は温泉でも有名な大分県の西部に位置し、滝や湧き水が各所にあるなど清らかな水に恵まれた地域。高い山々に囲まれた盆地の気候を生かした農業が行われている。農産物作付地域の標高は300〜900mと高低差があり、昼夜と夏冬の寒暖差も大きいことから多様で旨味の強い農産物を育むことができる。

現地に到着すると山頂の平らな山々が特徴的だった。これは地殻変動や火山活動などにより形成される「メサ」や「ビュート」と呼ばれる地形で、全国でもこれほどメサやビュートが集中している地域は珍しいそう。
その中でも町の象徴として愛されているのが「伐株山(きりかぶさん)」。山頂に上がると山々に囲まれた緑豊かな田畑や家並み、流れる川の美しくのどかな玖珠町の風景を見渡すことができた。

今回取材させていただく神連氏の農園も、この町にある。
圃場はピーマン 2反、米 1.5反、白ネギ 2反。収穫シーズンの忙しい時期は母やパート・アルバイトの助けを借りながら、基本的には1人で管理・経営している。

梅雨時期の取材当日は、避難勧告が出るほどの突然の豪雨にも見舞われた。この辺りは2018年の西日本豪雨で大きな被害を受けた日田市や中津市にも近く、大雨を降らす線状降水帯の雲が流れてきやすいのだという。
玖珠町を育む雄大な自然に、穏やかな気分を味わうと同時に、人間がコントロールできない災害への怖さも感じる日となった。

おんなじ繰り返しじゃ駄目だから、
ずっと勉強

6月末、ハウスの中にはすでに収穫シーズンを迎えた艶やかなピーマンが鈴なりになっていた。
神連氏は、今年は収量がかなり増えている状況について教えてくれた。
「このままスムーズにいってくれたらいいけど、手入れのタイミングをちょっと狂わすと止まっちゃう可能性もあるよね。おんなじ繰り返しじゃ駄目だから、ずっと勉強勉強。今の農業は難しいです。」

今と昔の農業は違うのだろうか。難しくなった理由は近年の気候変動の影響も想像できたが、他にはどんなことがあるのだろう。

1つは、台木(だいぎ)の品種や病害虫のことがあげられた。
台木とは、複数の植物をつなぎ合わせて1つの株として育てる「接ぎ木栽培」において、土台となる植物のこと。例えば「台木」には吸い上げる力が強い品種や、病気に強い品種を使い、上の方「穂木(ほぎ)」には味が良くなる品種や収穫量が多い品種などを継ぐことで、台木と穂木、それぞれの性質のいい所どりをすることができる。

メリットの大きい「接ぎ木栽培」を神連氏も導入しているが「台木は強いんだけど特定の病気に対しては弱いんです。同じ品種でも栽培環境が違うと病気が出たり、使えないこともあります。」とのこと。新しい品種を扱うたびに、実際に栽培しながらその特性を理解する必要がある。

病害虫の被害も増えており、昨年はピーマンにウイルスを媒介する虫「アザミウマ類」によって4棟のハウス全てが被害を受け、収穫は皆無だったという。
対策として、野菜の病害虫に耐性もしくは抵抗性を持つ品種開発も進んでおり、導入を勧められることもあるが「絶対植えない」と神連氏。病気になると、広がる前に農薬によって抑え込む手段があるが、耐性や抵抗性を持つ品種なのにも関わらず病気になった場合は、それだけ強い病気が発生しているということであり、手の施しようが無くなってしまうからだ。

現状は通気ネットを貼ることで病害虫が発生しにくい環境作りをしているが、夏場の暑さや資材の高騰など負担も大きい。今後は近年注目されている土着天敵のタバコカスミカメ(※1)の活用を考えているという。

又、水やり一つにしても変化した。「昔は朝か夕方にやればいいと思ってたけど、今は光合成のことまで考えた水分管理が大切だと言われています。日の出の2時間後くらいから光合成が始まるので、その前に水と肥料を一緒にあげておくと吸収しやすいと思ってやってます。うちは寒いんで、そういうのも考えて時間を調整しながら。」

効果を伺うと「目に見えてくれればいいんですけど、見えないっていうのも難しいところ。新人じゃないですけど、こうよねって言うのを思ってやっていく。でも、安定してできてるのも、そういうところにあるのかなって思います。」

台木について

神連氏が栽培をはじめた当時、ピーマン栽培で台木を扱うことはそれほど普及していなかったそうだが、今では新たな台木品種が頻繁に開発されるようになった

注1)タバコカスミカメ

農作物に被害を与える害虫を食べてくれる天敵

参考)