#3農業のちから

大地に感謝して自分を耕す
米をつくって人をつくっている。

現在アグリーンハートのスタッフは、ミュージシャン仲間が3名、一人は新規就農に興味を持った元カメラマン、他に元福祉従事者など、バックグラウンドは様々な14名からなる。
佐藤氏が採用の時に重視しているのは相手への思いやり。

「履歴書よりも面接の後の彼らの運転を見てるんです。ブレーキは自分のためのアクションですが、ウインカーという合図は相手のためのアクション。そのどちらが先かってすごく大事で、ウィンカーを先に出せる人は自分のことよりも相手を思いやった仕事ができると思う。相手への思いやりは地域づくりにもすごく重要になると思っています。」 そして、クリエイティブな発想をすることが大事だという。
「時代に合わせて事業を変化させていかなければいけない。時代に合わせてやるべきことや目的がものすごいスピードで変化してるんですよ。それができる人材の根元を持っているのは、たぶんクリエイターなんです。」

経営者として「農業を通して人材育成をしている、米を作って人材をつくっている。」と話す佐藤氏。佐藤氏がやっているのは、農業に限らず、時代の変化に合わせて事業を転換できる、共に未来を思い描ける人材育成だ。

「大成農材さんがやってることも同じで、肥料を通して大成農材の未来を作っていく人材をつくっていかなきゃいけないじゃないですか。それを僕は農業でやっている。どんな荒波にも負けない人材をつくるってことですね。」

会社の経営理念には「大地に感謝して自分を耕す」というフレーズがある。

自分を耕すために畑はある。畑を耕すのではなく自分を耕すんだと、そういう向き合い方を持って仕事をしてほしいという思いが込められている。

農業のちから。

最後に「農業」だからこそできる人材育成、「農業」の力について伺うと、農業高校の学生に向けた授業の話をしてくれた。

2つの事例がある。
1つ目は、すっぽんの話。全くサイズの違う1歳の大小のすっぽんの写真。違いの理由は育った環境。1匹は、人が泳げるような広さのすっぽんを育てるための温泉で育ち、もう一匹は料亭の展示用の水槽で育った。

2つ目はトマトの育て方のはなし。種をまいて適当な大きさに根が行き届くと次のフィールドに移してあげないといけない。根巻きをしすぎてタイミングを逃すともう伸びない。苗同士の距離も大事で、葉がぶつかると横に伸びず上に伸び足腰が弱くなってしまうので、離して地植えをし、ひとりで大きくなれるトマトにする。

この2つの話は、小さな場所で育てると小さく、大きな場所で育てると大きく育つという、器に合わせて自分を変えていく自然の性質を表している。農業高校の学生は、高校生活の中でこの自然の摂理にいつも触れていて身についている。その経験が今後いろんな職業に活きてくるという話だ。
人材育成もトマトの育て方と同じで、佐藤氏は職場でも、スタッフそれぞれに責任者や担当分野を任せるなど個人が伸びていける場(器)を先に与えている。責任者になってから成長できるというスタイルだ。

「僕は社長として常にその人の器よりも大きい器、次のフィールドを準備してあげるということをやってるんですね。それが人材育成の基本で、会社経営、街づくり、政治などものづくりの全てに言える、全てに応用できること。」

そしてもうひとつ、土づくりの話。
良い実を作るためには良い土が必要であるように、よいものづくり・ひとづくりのためには、まず理想・夢や目的を持ったうえで、それを叶えるための良い土台づくりが大切。

「僕はタレント活動として放送作家のような仕事をする時も「何をしたいのか?」という着地、農業でいうとどのような実を採るかを先に決める。そのためにまずは花をつくり、葉をつくり、茎をつくり、根をつくり、最後に土をつくるということをすれば伝わる番組になる訳なんです。今、大成農材さんがインタビューしに来てるのも土づくりじゃないですか。」

これらの、器や土づくりの話にある自然の摂理を知れるのは農業だからこそ。農業に触れるっていうのはこういうことだと思うと彼は言う。

自然・農産物は、何もことばを発しないが、こうして自然が見せてくれている性質の中には、課題に気づき事業をつくっていくためにも、個人がよりよく生きていくためにもたくさんのヒントがある。自然を観察することは「自ら」気づき、理解しようとする力を育み、自分自身と向き合うことにつながっている。
学生さんにはこの後も、「夢の持ち方」について話はつづく。

「何になりたいですか?って聞くと公務員になりたいってみんな言うんですよ。だけど公務員になって何がしたいのって聞くと答えられない。だけど「誰をどうしたいのか?」っていうのを先に持って「僕はこの人をこうしたい。だから僕はこれになりたいんだ」っていう夢の持ち方をしないと、それになれなかった時に、したいことが無くなっちゃうんですよ。 IoT やロボット技術などが発達している現代では、誰を・何をどうしたいのかっていうことを持って生きれた方が、時代に合わせて自分を変えていけますよね。学生のみなさんにはこういう話をしてます。」