#4理想の生き方と農業の魅力

メリハリのある人生を送ること

リスクが多すぎるので人には簡単に勧められないという農業だが、彼自身に迷いはない。
目指している農業は?と問うと

「農業というか、やる時はやって遊ぶ時はとにかく遊ぶ、メリハリのある人生を送ることが自分の理想。その方が自分の性格にも合ってるみたいで。」

農業も趣味も、ことは違えど本質は全部一緒、と話す彼のインスタグラムの投稿には、トマト栽培や釣りの写真が一緒に並んでいて、仕事も趣味も等価の彼の生き方が現れている。
もう一度人生があるとして職業選択をするなら?という質問にもすぐに返事が返ってきた。

「僕は中卒で農業をしますね。どれだけ知識があっても経験がないと活かせない、知識は後からでも入ってくる。だったら経験値を積みたい。
歳をとればとるほど、なんでもっと早く農業に興味を持ってなかったんだろう、中卒で始めたらもっと有意義な30代を送れたんやろうなって思ったこともあるんで。」

自分はどう生きたいのか?
高倉氏にとって、たまたま始めた農業はマイペースに生活し、趣味を楽しみ、自分の能力や感性を活かすことのできる職業選択だった。

人間生きてるんじゃなくて生かされてる

最後に農業の魅力を問うと、自然から学んだことを教えてくれた。

「農業をやっていると、自然の摂理に沿っていないと生きていけないことがよく分かります。
例えば作物を守るために僕が防除します。でも虫も生きないといけない。
でもやっぱりその虫を殺さないと僕らも生活できません。
どれだけの命を犠牲にして人間が成り立ってるのか、自然と接すると学ぶことが多くて。
なんかほんと、人生の勉強をさせてもらってます。」

これまでは全然気にしなかった小さな生き物のことも、今はなるべく殺生をしないように心がけ、ハウスの中で見つけた虫も生かしたまま外に出すようにしているという。
インスタグラムには虫やアナグマなど、畑の生き物もよく登場する。

「摘果した熟れたトマトを置いていると、アナグマ親子が食べに来たりするんですよ。
最近は食べずに悪さだけするやつもいて、これから収穫っていう時に遊んで引っ掻いて結構落とされてますからね。笑

本当に、人間生きてるんじゃなくて生かされてるっていうのが、やっぱ一番学んだ大きなことかもしれないですね。」

日々、植物や生き物、気候の変化と向き合う中で自然の摂理を感じ、食べ物を育てる農業は、私たち人間も関わり合う自然の一部であり、その中で生かされていることを思い出させてくれる。

最後に

取材が終わり、高倉氏が言った「リアル人生ゲーム」のことを考えていた。

人生ゲームは「コマを進め、山あり谷ありな人生を楽しもう!目指せ億万長者!」というキャッチコピーのもと、ルーレットを回してコマを動かし、マス目のイベントをこなしながら人生を進めていく。
誰もが平等にチャンスがあり「運」が勝敗を決めるゲームとも言われる。

コントロールするのではなく流れに委ねるように、「たまたまでした」と当時を振り返る彼の話には「師匠に出会い農業を始めたこと」「独立してトマト栽培を始めたこと」「有機肥料を使い始めたこと」「ハウス増設の資材を譲り受けたこと」など、人生の様々な転機で偶然の好機があり、それをチャンスとしてしっかりと掴んでいた。

ルーレットはコントロールできないが捉え方は自分次第。
同じイベントが起きても、その時の選択と行動次第で人生は大きく異なっていく。

植物の変化を観察し小さな変化に気付くように、日々の出来事も見ようとすることで、きっかけをみつけることができるかもしれない。
人はみんないつも「たまたま」に出会っている。そして選んできたことがその人の人生になるのではないだろうか。

仕事も趣味も「生きること」として、今を思い切り楽しむ彼の姿勢は、
「自分を知り、自分に合った働き方を選ぶこと」は「自分らしく生きること」につながっていると教えてくれた。

佐藤 拓郎

高倉 祐仁Yuji Takakura

1987年生まれ。20歳の時、スキー場での農家との偶然の出会いをきっかけに農業のアルバイトをはじめ、3年後には大玉トマトの夏秋栽培農家として独立。大分県玖珠郡九重町の豊かな自然環境の中で、農業も趣味のレジャーも思い切り楽しむメリハリのあるライフスタイルを実践している。今後は農地を拡大し、販路拡大を目指している。
ホビープランテーション
Instagram
大分県玖珠郡九重町
大玉トマト、米

筆者のプロフィール

cotonoah
cotonoah
デザイン、webディレクション、ライティングなどをしています。
大成農材株式会社との出会いをきっかけに農業や有機肥料の素晴らしさ、食の大切さに触れ、伝える方法を模索中。

あとがき

高倉祐二さんの農業のスタイル(オンシーズンとオフシーズンに分け、農業も趣味も楽しむ)はこれからの農業において注目されるべき素晴らしスタイルだと感じました。
半農半X(読み:はんのうはんえっくす 意味:半分農業で生計を立て、もう半分は他の仕事をして生計を立てること)という言葉をたまに耳にしますが、実現することは簡単なことではありません。
そんな中で半農半遊びを実現している高倉さんは、農業と本気で向き合い、本気で遊ぶ。
現代農業の理想の形の一つであると思います。
高倉さんありがとうございました。 大成農材株式会社 代表取締役社長 杉浦 朗