#3農業をはじめた経緯と決意

バス釣りのプロからの転身

「まだ12年ですよ。まだまだです、上には上がいるんで。」
向上心が強く農業にのめり込んでいると感じられる田代氏。元々農業に興味を持っていた訳ではなかったという。
学生時代は経営学を専攻。バス釣りが好きで、スポンサーもつくほどのプロとして活動していたという意外な経歴。

しかし、日本でこの道で食べていけるのだろうかと考えていた時、両親から農業を勧められたのだった。
祖父は米農家で、その農地を受け継ぐことができたが、農業の大変さとそれに見合わない収入を心配し、田代氏が農家になることは反対していたという。
田代氏自身は「ノリでした」と、気軽に始めたことを教えてくれた。

誰かに教わることなく、栽培に関する論文を好んで読んだり、実践しながら独学してきたという農業を、今では美味しさも栽培効率も考え、経営を成り立たせている彼だが、就農当時はがむしゃらに働いていたという。
どのように自分らしいスタイルを見つけてきたのだろうか。

「最初の5、6年は無我夢中で訳が分からず突き進んでて、本当に何も分からなかったです。きゅうり、トマト、枝豆、なす、とうもろこし、毎年変えながら色々つくってました。きゅうりとトマトで2000本、全部一人でやって手が回らないこともありました。

そんな中、休みを取るためには栽培品目を絞らないといけないなっていうのがどこかで出てきて。

やっぱり色んなものをつくるって色んなところに頭を使わないといけないじゃないですか。例えば肥料の配分もそれぞれに全部覚えなきゃいけない。

でも枝豆のスペシャリストになるなら、枝豆のことだけを考えればいい。
だから基本的にはつくる作物を絞って、あんまり色んなものをつくらないんです。農業としてはそれが楽じゃないですか。

品目を絞っていれば大きい機械も買いやすいけれど、色んなものをつくってると、対応する機械を全部揃えるのは難しくなってくる。そうすると人手がかかるから人を雇わないといけない。機械があれば自分の労働時間2時間で終わるものが、なければ1日かかるってこともあります。」

写真提供:W.B.S.(World Bass Society)

枝豆農家になる決意

品種を絞り、機械により効率化を図ることも試行錯誤しながら学んできた。自分でやりながら見つけてきたノウハウには説得力がある。
現在は枝豆農家と宣言する彼は、枝豆に関しても、昔は手がかかっていた作業をなるべく省力化し、種まきや肥料の散布、収穫を機械で行っている。

個人農家ではめずらしい大型機械を導入したのは、品質を落とさずに需要に応えるためだ。

「枝豆が売れすぎて全然足んなくなっちゃったんです。

もっとつくってくれって話をいただいたのは良いんですけど。でも栽培面積を拡大するってことは、液体肥料をかける範囲だったり作業量が増える訳です。そうすると手が回らなくなる、それで味が落ちるのが嫌だった。

そこですごく悩んで、「だったら機械を買えばいいや」と思って。機械を買って、枝豆農家になるって決意しました。」

農業に向き合う彼の言葉は、「自分の人生は自分で選んでいる」という大切なことに改めて気づかせてくれる。
肥料を切り替え、品目を絞り、枝豆農家になると決めたここ数年、田代氏には大きな変化が訪れていた。

作業効率の向上と、農作物の品質保持のために導入した肥料散布もできる乗用管理機。高価格帯な農機の導入には市の補助金も活用した。

売り先との出会い

「自分の野菜づくりの背景はインスタグラムで見えるようにしています。つくり方であったり、こういう機械を使ってるんだよとか、なるべく伝えるようにしてますね。
インスタを始めて自分のことを見てもらえるようになって、やっぱり売れるようになりました。つながった人が使ってる資材を知って、こういうやり方があるんだって発見もある。仲のいい人も増えますしね。」

2018年から始めたインスタグラムは、顧客とのコミュニケーション、同業者同士の情報交換など、様々なツールになっている。農協を通した販売から直販へ、売り先との出会いのきっかけになったのもインスタグラムだ。

田代氏の野菜づくりに興味を持った量販店「花京院市場」から声がかかったのがはじまりで、そこからホテルのレストランや飲食店などへ販路が広がっていった。

直販にされて良かったですか、という問いに「そうですね。収入も安定しましたし、何より生産者を大事にしてくれる売り先と出会えた。農家は野菜をつくるのも大事ですけど、やっぱり美味しくつくって出荷先を考えることも大事なんだって思わせてくれましたね。」

つくって終わりではなく、情報を伝え販売するところまでを農家自身が主体的に行う。SNSを活用することで、そういったこともやりやすくなった。大切につくった野菜への想いを積極的に発信する彼の周りには、価値観を共有できる人たちが自然に集まっている。

「朝どり」より「夕どり」が
美味しい枝豆

交流が続いている取引先の花京院市場やレストランのシェフたちとは、つくり手・売り手・買い手のつながりがあるからこそできる販売の工夫にも取り組んでいる。その一つが夕方収穫したばかりの枝豆を夕飯で食べてもらおうという試み。

「枝豆は夕方の方が甘みがあるんです。朝どり枝豆の方が美味しそうに感じがちですが、大学での研究結果で、朝どりは水分が多く甘みが少ないというのを見て面白いなあと思ったのがはじまりです。

夕どり枝豆の美味しさを紹介して、買いたい人いますか?って、インスタグラムで発信したところお客さんの反応もよかったので、じゃあやりましょうって。
出荷先の花京院市場さんを巻き込んで、店舗と自販機の2箇所で、今年実験的に2回販売しました。

うちは機械も大きいんで袋づめもすぐできる。例えば枝豆20kg分くらいなら、1時間あれば出荷までの準備は全部できるので、夕方収穫後すぐに市場へ持って行って、すぐ売ってくださいって。」

楽しそうだからやってみようという軽やかなフットワークからはじまった、仙台の街ならではの、畑と売り場の近さを活かした試みだ。