#5質問とメッセージ

届けたい野菜

美味しくて綺麗で、すごいなって驚かされる料理のように、自分は農家として、料理をする前の段階で人を驚かせたい。
楽しいじゃないですか。人を驚かせるのって。

農家や肥料屋さん、八百屋さんとか、いろんな野菜を食べてきている人たちが「食べてびっくりする野菜、また食べたいなって思う野菜」を届けていきたいです。そういう野菜なら、誰もが美味しいと思ってくれるはずだから。

これからの夢

野菜のブランド化と法人化が今後の課題です。

まずは枝豆をブランド化して、順調であれば人参やほうれん草も順次ブランド化していきたい。
今つくってる枝豆は「湯あがり娘」という人気の品種で、枝豆好きの中では知名度もあるので品種名を出せば売れちゃうんですよ。
でもブランド化したら品種名を出すのはやめようと思ってます。
品種を変えてもいいかなと思うし、「湯あがり娘」だから買いたいんじゃなくて、田代農園の豆だから買いたいっていう人を増やしていきたい。
そこで売れなくなったら自分が悪いんだなって考えられます。

出荷先への恩返しも含め、仙台はやっぱり自分の育った町なんで。美味しいだけじゃなくブランドとしても名前が売れて、他県の人が、うちの野菜を食べたいから仙台に来る、そういう野菜をつくってみたいです。
ホテルのレストランであったり、ショップさんであったり、出荷してるお店も増えてきたので、せっかくだからこっちに来て食べてほしいんですよね。

来て貰えばこんな町で育った野菜で、こんな人たちが料理してるってストーリーが見える。そういうのをやりたいです。

※内容は取材当時(2023年12月)のものです。
2024年6月、田代氏は夢に描いていた枝豆の個人ブランド化を実現した。ブランド名は「泉翠玉(いずみすいぎょく)」。田代農園から綺麗に見える泉ヶ岳、その麓にある農園で育つエメラルドのような枝豆をイメージしてつけられた名前だ。

教えること

良い肥料や良いことはやっぱり広めたい。
自分を超える人、追いかける人がほしいんですよ。
いろんな人の野菜を食べて「この人の枝豆はなんて美味しいんだ!?」と思ったらその人を超えようと思えるじゃないですか。それが今後の自分の実力にもなるので。

誰かに教えて、その人がうまくできたら、自分の枝豆のつくり方は他の野菜づくりにも応用できるんだとわかるから他の人にもさらに教えられる。

信頼できる農家さんには、経営のことや肥料のことをアドバイスすることもあります。そうしたら相手も教えてくれてお互いにシェアしたり。
肥料や売り先を紹介したら売り上げが2倍になった農家さんもいますよ。

農業の魅力とやりがい

子どもたちに野菜を美味しく安全に届けられるところや、売り手や買い手との距離が近いところ(が農業の魅力です)。
今はレストランのつながりであったり、取引先の店先に立って売ることもあるので、そこで料理をつくる人や食べる人の声を直接聞く機会があるのも楽しくて、やりがいになってます。

20代前半で農家を始めて一番思ったことは、会社に勤めていたら周りの人は同年代が多いと思いますが農業を始めると60代〜80代の人たちが多いですし、買い手も直売所や主婦層の50代の方が多いので、そういった人生の先輩と関われるのは楽しいですね。
過疎地だと皆さん受け入れに積極的で、可愛がってもらえますし若い人にもお勧めします。

そこで農業がだんだん分かってくると、自然の楽しみであったり、つくって買ってもらえる楽しみであったりもわかってくる。
うまく行く時もうまくいかない時もありますけど、自分はそれが今生きがいで楽しいです。

農家を目指す方へのメッセージ

これから農業を始める人たちには、直売所に出せばいいやっていうやり方ではなくて、自分も売り手なんだという気持ちで、自分の野菜のストーリーを語れる農家になってほしい。
野菜ひとつにストーリーがないとつくるシェフたちにも、買ってくれた人にも気持ちが伝わらないと思うんで。

農家を続けていくためにお金を儲けるのも大切なことなんですけど、それだけでは今まで積み上げてきたものが崩れることもあるんで、自分の野菜がどう使われるかに目を向けることも大事にしてほしい。
粗末に扱われるのって悲しいことですし。やっぱり自分の野菜はいい方向に行ってほしいですから。

趣味と休日について

通年では釣りをしていて冬はスノーボードをしてますね。
釣りって、魚を釣った時の楽しみもですけど、釣るまでの過程もやっぱり楽しいんです。
趣味で登山してる人も、登るまでの過程も登った後も楽しそうじゃないですか。農業も、つくるまでの過程、つくって農作物ができた時の美味しさ、両方楽しい。

失敗した時もそうです。とれる時もとれない時も、予測しながら試行錯誤して、それも楽しむ。
よく失敗してますもん、俺(笑)。
目標の出荷数が出せなかったとか、意図したことが裏目に出ちゃったとか。例えば水はけ良くするためにしたのに逆に水が溜まっちゃったとかね。
そういう時、自分の考えているものにならなかったら出荷もしないし、次はしないってことでいいじゃんって。

休日は急な作業とかがなければ基本的に日曜日を休みにしています。
あとは時間が取れる範囲内で。
平日でも自分の作業さえ頑張れば休みはすごく取りやすい職業だと思います。
農家は休みがないイメージもあるかもしれませんが、作物のことを考えつつ自分の休みも好きにつくってます。

最後に

「野菜づくりで驚かせたい」と、うれしそうに話してくれた田代氏は、大好きなことをして遊ぶ子どものようにパワフルで、人を惹きつける魅力にあふれていた。

理想の野菜づくりを目指し、妥協しない厳しさを持ちながらも、栽培すること・販売すること・発信すること・同業者や買い手とのコミュニケーション、農業にまつわる全てを自発的に行う姿には「やらなければいけない」という義務感はひとつもない。

「楽しいから行う」。違和感のないことを選択する。

求めているのは自分が本当に食べたいと思える野菜、そして自分自身が成長していくこと。
競い合うのではなく心を開いて、良いものを共有しみんなでより良い状態になっていくこと。

自分の心に素直に正直に、周りの人たちとも調和していく田代氏の仕事の姿勢は、これからの世界にとって必要なあり方に思える。

田代 涼

田代 涼Ryo Tashiro

宮城県生まれ。大学卒業後バス釣りのプロから農家へ転身。宮城県仙台市、都市近郊の農園にて品種と肥料にこだわる野菜農家を営む。現在は、枝豆農家として、枝豆を中心に個人ブランド化と法人化を目指す。
生産地と消費地の近い仙台の街ならではの利点を活かし、直接の取引先である地域の量販店やホテル、飲食店、和菓子屋などと共に、販売方法の工夫や商品づくりにも取り組んでいる。
田代農園(たしろのうえん)
公式 Instagram
宮城県仙台市
枝豆、ちぢみほうれん草、人参、もものすけ、サラダかぶ、とうもろこしなど
田代 涼
枝豆の個人ブランド
「泉翠玉」

Special Thanks

仙台国際ホテル
https://www.tobu-skh.co.jp/
ホテルメトロポリタン仙台
https://sendai.metropolitan.jp/
花京院市場
https://www.facebook.com/kakyoinichiba
有限会社 東北グリーン
https://tohoku-green.com/

筆者のプロフィール

cotonoah
cotonoah
デザイン、webディレクション、ライティングなどをしています。
大成農材株式会社との出会いをきっかけに農業や有機肥料の素晴らしさ、食の大切さに触れ、伝える方法を模索中。

あとがき

ちぢみほうれん草や、もものすけ、サラダかぶを畑で食べたときのおいしさは”格別”で、このおいしさをたくさんの人に伝えたいと思いました。

街に近く、消費者の顔がすぐに見えるところで野菜を育てる田代さんは、ひとを驚かせたい感動させたいという思いを、畑で表現しているのだなと感じました。

品種の選定と栽培、ブランディングと人との繋がりを大切にする田代さんに、たくさんのことを学ばせてもらいました。

田代さんありがとうございました。 大成農材株式会社 代表取締役社長 杉浦 朗