#4【対談】活かし合い助け合う、つくり手と買い手
シェフとの出会い
仙台の中心部。ショップや飲食店が並ぶ繁華街にあるシティホテル「仙台国際ホテル」のレストランロジェドールでは、宮城東北の海・山・里の食材をふんだんに取り入れたフレンチを提供する。調理人が現地に足を運び、生産者と連携しながらの取り組みだ。
取材の日は、田代氏と日頃から交流の深いシェフでありパティシエの土屋 貴幸氏、シェフの佐伯 聖哉氏のスペシャルディナーをいただくことができた。 (以下敬称略)
− 出会いのきっかけは?
田代
3年くらい前、土屋シェフが美味しい野菜を探していたところ、卸先の花京院市場さんを通じてうちのサラダかぶを勧めてもらったんです。
仙台国際ホテルでは、年間を通して田代農園の人参、とうもろこし、枝豆などを仕入れている。
枝豆を自家製の「ずんだ」にして、宮城の伝統お菓子「ずんだ餅」もつくる。
土屋
こんなに美味しい枝豆をずんだにするのはもったいないなと思いながらつくってます。田代さんの野菜は、味ももちろん良いんですけど本当に香りがよくてみずみずしい。今日は野菜の味わいをシンプルに召し上がっていただきたいなと思ってます。
この日のメニューは田代農園の野菜が主役のフルコース。
さっき畑で見てきたばかりのとれたての野菜たちと、食を通してお客さまをもてなす仙台国際ホテルならではの試みで自家製でつくられたという生ハムやキャビア、仙台牛など宮城県産の食材が組み合わされ、相性のよいお酒と共に並ぶ。
人参、かぶ、もものすけ、ほうれん草が、フレッシュなサラダ、火を通した焼き野菜、裏ごしをしたピューレなど、様々に形を変え、見た目も美しく表現されて登場した。
つくる時の気持ち
「なにより楽しくなりました」
とれたての素材の味わいを活かすために最小限の調味料でつくられた料理は、どれも田代氏の野菜の美味しさが引き出されていた。野菜がこんなに甘く、こんなに香りがするんだと、素直に驚く。
そして、嬉しそうに料理の説明をしてくれるシェフたちの言葉は、田代氏への日頃の感謝、食材への敬意と愛情にあふれていた。
– 田代氏の野菜は、土屋シェフにとってどんな野菜なんでしょう?
土屋
新鮮なのはもちろんですが、日にちが経ってもすごく香りが立っていて美味しい。やっぱり料理って香りが大切なので、料理が活きる食材です。
田代さんの野菜ならではなので、ずっと一緒に頑張っていきたいなと。逃がせられないですね(笑)。
−こだわりを持って育てた野菜を、こんなふうに、この日のために考案してくれたオリジナルのメニューでいただけるって本当に嬉しい、素晴らしい関係性ですね。
田代
仲がいいだけですよ(笑)。頼んでもフルコースをつくってくれるところはなかなかないですよね。
自分の野菜を丁寧に調理してゆっくり味わうこともない。普段はほとんど生で食べるくらいなので。
– シェフは元々畑を見られるのがお好きなんですか?
土屋
コロナが始まった頃に見にいくようになりました。それまで食材は市場から八百屋さんを通して仕入れていたんですけれど、なんか違うなっていうのがあって、自分たち料理人が仕事がなくなったり、お客さんがいなくなった時に「農家さんも同じ状況なのではないだろうか?声をかけてみよう」と思って行き始めたのが最初です。
そこで改めて宮城の食材に出会った時に、やっぱり宮城の食材って美味しいなっていうのを感じて、自分たちももっと勉強しなきゃいけないという思いからいろんな農家さんに会いに行ってます。
ホテルでは仙台の食材を集めた朝食もやってるんですよ。宮城県産の野菜や焼きハゼ、伊達焼きそばを使ったり、北から南まで、スタッフみんなでいろんなところに探しに行って、それを県外の人や海外のお客さんに伝えていこうっていう朝食「宮城を旅する朝食」っていうのをやってます。
田代さんの畑、すごく良いですよね。よく遊びに行かせてもらってます。私はパティシエなので野菜の畑に行くのはなんで?って感じられると思うんですけど。野菜の様子を見に行ったり、ただただ暇つぶしに行ったり。月に何回行くかわかんないくらい(笑)。」
− 仙台国際ホテルのように、野菜を使いたい、 仕入れたいというお話はあるものですか?
田代
いろんな方に使ってもらってます。仕入れの相談も増えてきたのですが、基本的には依頼をくれた人と会って、そのお店で料理をいただいたり話をした上で卸すことに決めてます。
− じゃあお断りするケースも?
田代
ありますね。時には、ぶしつけに「お金ならいくらでも出すから」というような言い方をする人もいるんです。そういう時はお断りします。
今日の土屋シェフや佐伯シェフたちの料理は、食べてて野菜が感謝されてる感じがする。そういうところだったら価格関係なく届けたい。
佐伯
ありがとうございます。
長年料理をしてきたけど生産者の人と会う機会はあまりなかったんです。でも今はたくさんの方と会って話をして仕入れることで、食材の後ろに、田代さんら一生懸命つくってる生産者の顔が見える。彼らがいるから美味しい料理を提供できるんだと、つくる時の気持ちがガラッと変わりましたし、何より楽しくなりました。
本来土屋シェフなんてデザートを担当するパティシエですからね 。調理スタッフより野菜に詳しくなりましたよ。
土屋
ほぼ、野菜の仕入れ担当みたいになってますよね(笑)。
− 田代氏が「販売先になる人には必ず会う」という考えに至ったのも、こうしたホテルのシェフたちの影響もありますか?
田代
そうですね。佐伯さんのようなシェフがこういう使い方をするんだっていうのを見て、自分ももっと考えないとなって。今まで評価してくれた人は絶対大事にできるように、例えばこれ以上出荷できないんだったら、新しい販売先の依頼があっても自分は断らないといけない。そこも考えてますね。
土屋
田代さんの野菜に負けないように、こちらも良いものを提供する、今後もお互いに良い刺激を与え合いながら続けていけたらなと思います。
農家さんに野菜を捨てさせてはいけない
地元農家を訪ねて食材を選び、心をこめて調理をする土屋シェフや佐伯シェフは、本来食べられるのに捨てられてしまう食品「フードロス」にも関心が高い。
田代
規格外の野菜、注文量を上回る余った野菜は自宅前の自販機(※2)で販売するか、取引先のいくつかのホテルのレストランが買い取ってくれるので助かってるんです。
土屋
どんな農家さんでも、出荷ロスが結構あるんですよね。農家さんに育てた野菜を捨てさせてはいけない、という思いがあって。田代さんのところでも、小さかったり形が悪かったりどうしても出荷できないものは、じゃあうちで買いますってお伝えしています。
それを自分たちホテルが購入して、先ほどの料理でも出てきたピューレ状のソースやスープにして宴会で提供する。
そして、なるべく綺麗な形のものは花京院市場さん(スーパー)などで販売して一般の方に食べてもらえるように。
自分たちホテルは加工して調理してしまうから形は関係ないので、そういったふうにうまく付き合っていけたらなと思っています。
あんまり言うと本当にすごい量を持ってくるんですけどね。軽トラ1台分とか(笑)。
田代
去年ありましたね。
土屋
田代さんが1週間くらい体調が悪くなって。収穫時期がズレてかぶのサイズが大きくなりすぎたことがあったんです。味は美味しいんですよ、でも田代さんはこだわりが強いんで、もうこれは俺の野菜じゃないって言うので、そういった時に佐伯シェフと一緒に行って、大きくなったかぶをいっぱい収穫して。
あれ何キロでしたかね。
田代
2回とったんで500kgちょっと、コンテナ30箱くらい。寒い中3人でひたすら抜きましたね。
晴れた日にすりゃ良かったねって(笑)。
土屋
懐かしい、良い思い出になりました。それを考えながら料理するとやっぱりつくってて楽しいです。
佐伯
田代さんの人柄の良さもあって、畑に通っても何も言わないで受け入れてくれる。貢献しないと。
偶然、田代さんがいてくれたんで対応できたけど、いなかったらどうなってたんだろうって時もありました。
田代
ホテルで急に野菜が足りなくなったから、かぶ10kgを30分で用意してくれって急にお願いされたことがありましたね(笑)。
そんな時のためにも機械を入れてるので、すぐ準備して持っていきました。スピード感が大事。
− お互いに助け合っていることが伝わってきます。循環がすごく良い。
お話しを聞いていると、仙台は、このホテルのある繁華街から畑までの距離が近いっていうのが素敵ですね。
土屋
宮城のいいところだなって。近くに海もあれば山もあって食材に溢れてる。自分は千葉出身だったんで、東京と千葉で働いてた時には、それってなかなか成し得ないことだったので宮城ならでは。それを使わないのは選択肢としてないなって尚更思います。
販売先と共に、チームで取り組む
シェフの協力のもと、老舗和菓子店と共にずんだ餅をつくるという新しいプロジェクトも動き出している。
すりつぶした枝豆を餡に用いる餅菓子で、南東北、特に宮城県を中心にした地域の郷土菓子として有名な仙台名物「ずんだ餅」。
原料となる枝豆は、実は海外からの輸入に頼っていることも多いという。そこで、田代農園の枝豆を使用し、地元の食材を活かした土産物をつくろうという取り組みだ。
本来パティシエである土屋シェフは、お菓子づくりのプロ。このプロジェクトに枝豆の餡づくりの監修として携わるのだ。
田代
土屋シェフは仙台のずんだをつくるための、キーパーソン。今週も2人で頑張ってつくりました。
土屋
何回やってるかわかんないですよね。田代さんから1週間連絡が来ないとちょっと心配になる。体調悪いのかなとか、野菜大丈夫かなと思って。
田代
こんなふうに、お互いに冗談も言い合えるような関係になれたのがよかったなって思います。
「想い」がつながり循環する
料理人は、農産物の魅力を引き出してくれる農家の重要なパートナーであり、料理人は良い素材があるからこそ魅力ある料理をつくることができる。
仙台には、食材への「想い」を同じくする人たちがお互いを活かし合い、助け合う姿があった。
利益のためではなく信頼でつながるチームの中では、感謝・喜び・経済価値も循環していた。
肥料の価値を信じて使ってくださる田代氏が居て、田代氏の野菜がほしいという売り手やシェフたちが居て、それを食べて感動する私たちが居たレストランのひとときは、とても豊かな時間だった。出会ったあたたかいみなさんに感謝し、また行きたいと思う。