#2植物を素直に育てる

生育に合わせて栽培方法を変えていく

神連氏の話からは、ベテラン農家にとっても野菜づくりは難しいことが伝わってくる。気候の変化、作物の病気、開発される品種や栽培技術を学び続けることなど、毎年、一から新しいことを始めるようなものだ。
さらに、長年農業を続けている彼は玖珠町のピーマン部会の部会長やファーマーズスクールの講師、大分県指導農業士など、地域の農業指導者としての役割も多く、「教えること」の難しさも感じている。

夏秋ピーマンの栽培は2月の終わりの圃場準備から始まり、「定植」「糸つり」「整枝(わき芽取り・摘花・摘果)」「収穫」と11月に霜が降るまで続く。ピーマンを植える「定植」までの工程は同じでも、栽培環境の気象条件によってその後の生育は異なるため、それに応じて教え方も変えていく必要があるのだ。

「標高が300〜500mの圃場と、600mの圃場では生育も全然違うんですよね。虫や病気の出方も違うから同じ考え方ではだめなんです。若いのに教える時は、どのタイミングで穫るかも自分で考えてくださいと言うようにしてます。」神連氏は研修生の圃場に通い、実際の環境で、生育に合わせた教え方を大切にしている。

ファーマーズスクールについて

地域の先輩農家の下で指導を受けながら栽培技術と農業経営を学び、就農に向けた技術を取得する制度。

参考)

植物を素直に育てる

同じ産地の同じ農作物であっても、適した栽培方法は様々で一括りにはできない、学ぶことの尽きない農業。だからこそ神連氏は「植物を素直に育てる」ことを心がけている。

ピーマン栽培を成功させるためには、整枝の位置や数・時期などの一般的なメソッドや、研究開発され続ける新技術もあるが神連氏は「植物ホルモン」に注目している。ピーマンの木を指し「歳を重ねるにつれて覚えきれなくなってくる。だから僕の場合は、放任栽培が一番。これ、ほぼいじってないんですよ」と教えてくれた。
神連氏の方法はセオリー通りではないのかもしれないが、長年安定した収量をあげている。

植物は「植物ホルモン」の働きによって、環境の変化を察知し、自ら生長の促進・抑制を調整する能力に優れているという。ピーマンの生育はピーマン自身が、今、最適な状態へとコントロールしているのだ。
だから神連氏は必要以上に手をかけずピーマンの様子を観察し、環境を整えることを大切にする。周囲の環境に素直に影響される植物をサポートするような姿勢が「素直に育てる」ということを表しているようだった。

「倒れてくると成長を止めてしまうので、倒れないように、誘引の糸を巻いて止めて生育をスムーズにする。(主枝と主枝から出るわき枝のことを親と子に例え)ちゃんと親分を立ててやれば子どもたちはついてきます。」

「先の方にどんどん実がついてくると下には綺麗な実がつかないし、太りが悪くなるんで邪魔するようなやつを切ってやる。こうじゃないとダメとか、決まった数に合わせるんじゃなくって、感覚です。伸びがうまくいかんね、枝の張り方が違うねとか、様子を見ながら。」

「ピーマンは少ない光で育つので、少しの草刈りで十分なんです。だから、逆に日焼けしないようにいっぱい葉をしげらせてしまうんですよ。」

栽培について、取材者の私にも、やることをただ伝えるのではなく何故そうするのか、それがピーマンにとってどのように良いのかをやさしく説明してくれた。